稽古場レポート
この日は稽古場での最終稽古。開始時間前から、稽古場には和やかな空気と緊張感とが入り混じっていた。15分前になり、稽古場には続々とキャストとスタッフたちが集まってくる。
通し稽古は、大きなトラブルが起きない限りは中断せずに最後までおこなう。そのために、各所の準備は入念になされる。階段を模した、高さのある可動式セットのチェック、楽器とアンプのチェック。カミ手、シモ手の中の動き確認、衣装チェンジの段取りなど。
喜多郁代役の大森未来衣と山田リョウ役の小山内花凜は発声練習に余念がなく、伊地知虹夏役の大竹美希はセリフを何度も繰り返し確認している。脚本・演出の山崎彬から「リラックスして」と声をかけられた後藤ひとり(ぼっち)役の守乃まもは、緊張した表情を少しほころばせると、妹である後藤ふたり役の岡菜々美・津久井有咲と軽く談笑を始めた。さまざまな役を担う“ぼっち~ず”の面々は、ストレッチを入念におこない、体の様子を確かめているようだ。
5分前、山崎から、本日は最後の調整であることと、前日の稽古でやりにくかったことを確認するようにアナウンスが入る。これが終われば、あとは劇場に入ることになる。現場の空気に、ピンと一本の線が張られたのを感じた。
時間になり、通し稽古が始まった。原作を知らない観客には、まずは本作のイメージを伝えるように。原作ファンには「やっぱりこれだ」と感じさせるように、ギターの音色が稽古場に響き、物語が動き出した。
「ここで場内暗くなります」「スクリーンがおりてくる」「照明つきます」など、場面転換のきっかけアナウンスを入れながら、順調に通し稽古は進んでいく。ジャージのズボンを着たり脱いだりする守乃は、ソデで大忙しだ。脚本・演出の山崎は、シーンを見ながら気になった部分を、その場でタブレットに書きこんでいた。
ストーリーは、押し入れでの“ぼっち”の演奏、脳内妄想、学校生活……と、原作漫画とアニメの展開を踏襲しつつ、舞台向けに時間軸を組みかえながら丁寧に進んでいく。場所や時間の移動は、漫画やアニメと違って舞台では難しい。しかし本作では、さまざまな事象や人物に変化する“ぼっち~ず”の活躍などによって、それらがスムーズかつコミカルにおこなわれている。
後藤ひとりを演じる守乃まもは、役者としては本作がデビューとなる。各所のインタビューで語られているように、ふだんの言動から“ぼっち”そのものの守乃。「あっ」から始まるセリフ回しも、人と対峙したときの視線の動きも行動も、“ぼっち”が現実にいたらまさにこういう人になるのだろうな、と思わせてくれる。
「ひとりぼっち」だったひとりに声をかける虹夏。演じる大竹美希は、経験豊富なドラマーであり役者でもある。地声が低めであることを各所のインタビューで語っているが、それを感じさせず、明るく前向きでみんなのまとめ役である虹夏を、まさに夏の太陽のように生き生きと演じている。
ミステリアスなベーシスト・山田リョウを演じるのは小山内花凜。ヘアメイクをした状態で舞台に立つ姿が楽しみになるビジュアルだけでなく、淡々としたクールな表情を崩さずに繰り出すマイペースな言動も、まさに山田リョウそのものだ。
喜多郁代を演じる大森未来衣は、よく通る芯のある声で、芝居パートと歌唱パートを力強くリードしている。きらきらした明るさと、猪突猛進な一面を持つ陽キャの喜多ちゃんの参加によって、“結束バンド”が大きく動いていく様子に注目してほしい。
河内美里は「STARRY」の店長である伊地知星歌としてその場の空気に重みを加え、シーンの印象を強めている。廣井きくりを演じる月川玲は、登場するだけで役としての説得力を感じさせる。するっとその場にナチュラルに存在しているPAさん(堀春菜)、観ている者を思わず笑顔にしてしまう後藤ふたり(岡菜々美と津久井有咲のWキャスト)にもぜひ注目を。
生演奏のシーンでは、稽古で幾度となく聴いているスタッフたちやその他キャストたちも思わず体を揺らして音楽に乗ってしまう様子が見られた。演奏後は盛大な拍手と歓声。劇場ではさらに、照明、音響効果、そして何よりも観客席の熱と舞台上の熱が合わさって極上の“エンタメの空気”が生まれる。生の演奏と歌声の力強さ、圧、熱さを存分に浴びる体験ができるだろう。
生演奏と生歌唱を大きな売りとしている本作だが、原作で描かれている、キャラクターそれぞれの悩みや葛藤、成長も丁寧に表現している。“結束バンド”のメンバーは、もともと楽器の演奏ができる人物をオーディションで選んでいる本作。しかし「楽器ができる」だけではない、役とのシンクロっぷりをぜひ舞台で楽しんでもらいたい。
公演は8月11日(金・祝)から8月20日(日)まで、新宿・THEATER
MILANO-Za(シアターミラノ座)にて。
通し稽古は、大きなトラブルが起きない限りは中断せずに最後までおこなう。そのために、各所の準備は入念になされる。階段を模した、高さのある可動式セットのチェック、楽器とアンプのチェック。カミ手、シモ手の中の動き確認、衣装チェンジの段取りなど。
喜多郁代役の大森未来衣と山田リョウ役の小山内花凜は発声練習に余念がなく、伊地知虹夏役の大竹美希はセリフを何度も繰り返し確認している。脚本・演出の山崎彬から「リラックスして」と声をかけられた後藤ひとり(ぼっち)役の守乃まもは、緊張した表情を少しほころばせると、妹である後藤ふたり役の岡菜々美・津久井有咲と軽く談笑を始めた。さまざまな役を担う“ぼっち~ず”の面々は、ストレッチを入念におこない、体の様子を確かめているようだ。
5分前、山崎から、本日は最後の調整であることと、前日の稽古でやりにくかったことを確認するようにアナウンスが入る。これが終われば、あとは劇場に入ることになる。現場の空気に、ピンと一本の線が張られたのを感じた。
時間になり、通し稽古が始まった。原作を知らない観客には、まずは本作のイメージを伝えるように。原作ファンには「やっぱりこれだ」と感じさせるように、ギターの音色が稽古場に響き、物語が動き出した。
「ここで場内暗くなります」「スクリーンがおりてくる」「照明つきます」など、場面転換のきっかけアナウンスを入れながら、順調に通し稽古は進んでいく。ジャージのズボンを着たり脱いだりする守乃は、ソデで大忙しだ。脚本・演出の山崎は、シーンを見ながら気になった部分を、その場でタブレットに書きこんでいた。
ストーリーは、押し入れでの“ぼっち”の演奏、脳内妄想、学校生活……と、原作漫画とアニメの展開を踏襲しつつ、舞台向けに時間軸を組みかえながら丁寧に進んでいく。場所や時間の移動は、漫画やアニメと違って舞台では難しい。しかし本作では、さまざまな事象や人物に変化する“ぼっち~ず”の活躍などによって、それらがスムーズかつコミカルにおこなわれている。
後藤ひとりを演じる守乃まもは、役者としては本作がデビューとなる。各所のインタビューで語られているように、ふだんの言動から“ぼっち”そのものの守乃。「あっ」から始まるセリフ回しも、人と対峙したときの視線の動きも行動も、“ぼっち”が現実にいたらまさにこういう人になるのだろうな、と思わせてくれる。
「ひとりぼっち」だったひとりに声をかける虹夏。演じる大竹美希は、経験豊富なドラマーであり役者でもある。地声が低めであることを各所のインタビューで語っているが、それを感じさせず、明るく前向きでみんなのまとめ役である虹夏を、まさに夏の太陽のように生き生きと演じている。
ミステリアスなベーシスト・山田リョウを演じるのは小山内花凜。ヘアメイクをした状態で舞台に立つ姿が楽しみになるビジュアルだけでなく、淡々としたクールな表情を崩さずに繰り出すマイペースな言動も、まさに山田リョウそのものだ。
喜多郁代を演じる大森未来衣は、よく通る芯のある声で、芝居パートと歌唱パートを力強くリードしている。きらきらした明るさと、猪突猛進な一面を持つ陽キャの喜多ちゃんの参加によって、“結束バンド”が大きく動いていく様子に注目してほしい。
河内美里は「STARRY」の店長である伊地知星歌としてその場の空気に重みを加え、シーンの印象を強めている。廣井きくりを演じる月川玲は、登場するだけで役としての説得力を感じさせる。するっとその場にナチュラルに存在しているPAさん(堀春菜)、観ている者を思わず笑顔にしてしまう後藤ふたり(岡菜々美と津久井有咲のWキャスト)にもぜひ注目を。
生演奏のシーンでは、稽古で幾度となく聴いているスタッフたちやその他キャストたちも思わず体を揺らして音楽に乗ってしまう様子が見られた。演奏後は盛大な拍手と歓声。劇場ではさらに、照明、音響効果、そして何よりも観客席の熱と舞台上の熱が合わさって極上の“エンタメの空気”が生まれる。生の演奏と歌声の力強さ、圧、熱さを存分に浴びる体験ができるだろう。
生演奏と生歌唱を大きな売りとしている本作だが、原作で描かれている、キャラクターそれぞれの悩みや葛藤、成長も丁寧に表現している。“結束バンド”のメンバーは、もともと楽器の演奏ができる人物をオーディションで選んでいる本作。しかし「楽器ができる」だけではない、役とのシンクロっぷりをぜひ舞台で楽しんでもらいたい。
公演は8月11日(金・祝)から8月20日(日)まで、新宿・THEATER
MILANO-Za(シアターミラノ座)にて。