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SPECIAL

日時:2023年5月21日(日)
会場:Zepp Haneda (TOKYO)

出演:青山吉能、鈴代紗弓、水野朔、長谷川育美
バンドメンバー:生本直毅(Gt.)、五十嵐勝人(Gt.)、山崎英明(Ba.)、石井悠也(Dr.)

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(2023年5月28日(日)23:59まで)

TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』に登場する結束バンドの初のワンマンライブ『結束バンドLIVE-恒星-』が、5月21日(日)Zepp Haneda (TOKYO)で行われた。出演したのは青山吉能、鈴代紗弓、水野朔、長谷川育美。結束バンドの演奏を担当するバックバンドは生本直毅(Gt.)、五十嵐勝人(Gt.)、山崎英明(Ba.)、石井悠也(Dr.)。会場はオールスタンディング! 途中『ぼっち・ざ・ろっく!』劇場総集編が、2024年春公開予定、という大きな発表もあったが、熱狂の中、繰り広げられたライブの模様をレポートする。

 会場に流れていたBGMが止み、客電が落ちると大きな歓声が起こる。バンドメンバーが登場し、石井悠也のドラムから、山崎英明がベース 、五十嵐勝人がギター、最後にバンマスの生本直毅がギターをかき鳴らす。その間に長谷川育美(喜多郁代役)がセンターにスタンバイし、「ひとりぼっち東京」からライブがスタートする。ライブハウスで感じる音の圧力は凄まじく、特にリズム隊の低音は体にズシズシと響いてきた。その中をパーンと突き抜けて聴こえてくる長谷川のボーカル。バンドの一体感に思わず息を呑む。「こんばんは。結束バンドです。」と言って、スタンドからマイクを取ると「ギターと孤独と蒼い惑星」をぶちかます。観客もボルテージを一気に上げ、大きな声で曲に参加していく。この曲は緩急のある曲で、ギターの2人がアルペジオを弾き、一度落としたところから、サビで爆発するところの迫力が印象的だが、長谷川も感情をむき出しにして歌っていた。〈心臓〉〈聴けよ〉という決めのフレーズでの表現は、会場を虜にしていた。

 長谷川がクラップを促して軽快に始まった「ラブソングが歌えない」。間奏の音源よりも激しいギターアレンジで客を煽る。〈ああ嫌だ 嫌だ 嫌だ〉では、オーディエンスも一緒になって声を張り上げる。ボーカルは、かわいさも出しつつ、歌詞の鬱屈とした感情を歌に乗せて吐き出していて、特に最後の“嫌だ”は、魂がこもったものになっていた。

 今回のライブはオールスタンディング。最初のMCで「手がいっぱい! 普通のイベントだと見られない光景だから、すごく新鮮です。熱い心やロックな心は大事ですけど、思いやりの心を持って、あまり押し合わないように」と伝えると、素直にうなずく観客。そして、「ここからはガラッと雰囲気を変えて、明るく元気に歌っていきたいと思います!」と言って歌ったのは「Distortion!!」。ギター2人がフロントに出てくると、長谷川もステージを左右に移動しながら軽やかに、スタッカート気味に歌っていく。最後のロングトーンを気持ち良さそうに響かせて「ひみつ基地」へ。スクリーンに青空を映し出す演出も爽やかだったが、長谷川も時にスキップをしながら楽しそうな表情。会場の声やクラップも大きく、一体感を感じる曲になっていた。

 一瞬でボーカルをチェンジして、ステージ中央に立った水野朔(山田リョウ役)が披露したのは「カラカラ」。変拍子で難解な始まり方をする曲だが、サビへ向けて徐々にエモーショナルになっていく展開を、見事に表現。サビもファルセットと地声を行き来しながら歌い上げていた。シリアスな歌唱からのMCでのはしゃぎっぷりは可愛らしく、「やってみたいことがあります!」とウェーブをして楽しんでいた。

 バンドセッションから、ステージ前方に出てきた生本が、TVアニメ第8話で描かれた、後藤ひとり(以下、ぼっち)が覚醒する「あのバンド」のアドリブイントロを再現し、会場の空気を一変させる。ステージからは大量のスモークが吹き上がり、フロアの熱気も急上昇。凶暴で繊細で純粋…そんなぼっちの感性が表れている歌詞を受け止めて、外に吐き出していく長谷川のエモいボーカルに観客も痺れる。感情むき出しでかき鳴らされるギターも圧巻だった。

 ドラマのマーチングのリズムから始まった「小さな海」。静かな前半から、後半一気に音が分厚くなっていくドラマチックなロックバラードだが、かすかに見える光へ向かって前進していく感じをバンド全体で表現していた。

 ボーカルチェンジして鈴代紗弓(伊地知虹夏役)が披露した「なにが悪い」は、会場をひとつにする楽曲だ。手を左右に振ったり、掛け合ったり。最後は“WOW WOW WOW WOW YEAH”を大合唱し、バンドのかき回しからの大ジャンプで締めくくる。そのままMCでは、コール&レスポンスをして、観客とのやり取りを楽しんでいた。

 再び長谷川が登場して、新曲「青い春と西の空」を披露。ギターの2人が会話をするように掛け合うイントロから始まる青春感たっぷりの楽曲。ストレートな王道ポップチューンというのは、結束バンドではなかったところかもしれない。スクリーンにも江ノ島の風景を映し出しながら、長谷川も心地よい歌声を響かせていた。

 コール&レスポンスから、「行くぞ! ゼップ!」と叫ぶと、ライブはクライマックスへと加速していく。TVシリーズ最終話の文化祭(秀華祭)ナンバーである2曲。ドラムのカウントから始まる「忘れてやらない」では、劇中で喜多がやっていたように、長谷川も頭の上で手を叩き、クラップを促していく。驚きだったのはサビで大合唱が起こったことで、観客と一緒に盛り上がれる曲になっていた。そして、曲間にバンド紹介をするというのも、ライブの醍醐味と言えるだろう。続く「星座になれたら」では、ドラム&ベースが繰り出すおしゃれなリズムに乗って、爽やかに歌う。ギターソロで、最初に五十嵐が前に出てきたところで、観客がすぐに察していたのはさすがだった。劇中でアクシデントが起こったぼっちをカバーするために喜多が演奏したソロを弾くと、満を持して生本が前へ出てくる。ボトルネック奏法でのソロに観客は湧きに湧いていたが、まるで作品の世界に入ったかのようでもあった。

 本編ラストは「フラッシュバッカー」。スモークに覆われたステージの上、スポットライトを浴びた長谷川が、スタンドマイクで歌っていく。分厚いサウンドに包まれながら、歌詞に込められている想いに、歌声で光を当てていく。結束バンドは、陰キャなぼっちが書く歌詞を、陽キャな喜多が歌うという絶妙なバランスが魅力でもあるが、まさにそれを体現しているかのようなパフォーマンスだった。そして、余韻が残る歌唱のあと、バンドの残響が鳴り続ける中、メンバーがステージをあとにする。

 鳴り止まない「BTR(BOCCHI THE ROCK!)」コールに応えてのアンコールは驚きから始まった。バンドが定位置に付き、しばらくの静寂のあと、ゆっくりと登場してきた青山吉能(後藤ひとり役)。その肩に、黒のエピフォンレスポールカスタムが下がっているのに気づくと、大きなどよめきが起こる。静かに「転がる岩、君に朝が降る」のイントロのフレーズをつま弾き始めると、そのまま歌を紡いでいく。イントロだけでなく、間奏のソロまで自分で弾いていたが、彼女の歌とギターからは、ぼっちの内側にある音楽に対する情熱を感じ取ることができた。観客も拳を突き上げながらも、感動せずにはいられなかったのではないだろうか。演奏が終わったあと、震える右手を見せて「見て! ヤバいんだけど!」と、ホッとした表情を見せる。アニメの連動企画でずっとギターを練習していた彼女だが、「音楽の楽しさ、ギターを弾く楽しさを教えてくれて、音楽ってすごく尊いんだな、『ぼっち・ざ・ろっく!』に出会えて良かったなと思いました」としみじみと語る。

 その後、映像で『ぼっち・ざ・ろっく!』劇場総集編の制作が決定し、2024年春に公開予定であることが告げられると歓喜の声が轟く。結束バンドのキャスト4人も再登場し、喜びを分かち合う。そして4人の口から、『ぼっち・ざ・ろっく!』への愛、そしてこの日のライブの感想が語られていく。長谷川が「(スペシャルイベントの)ミニライブに悔いを残していたところもあったので、絶対に乗り越えてやる。レベルアップしたところを皆さんに見ていただきたいと思いながら1ヶ月過ごしてきました」と話していたが、わずか1ヶ月で4人がレベルアップした姿を見せてくれたのが、本当に素晴らしかった。

「まだ聴いていない曲があるんじゃないかな? せっかくなんで、ぶちかましますか!」と青山が言い残し、長谷川を残して3人が捌けたあと、新曲「光の中へ」を初披露。バンドをする喜びが感じられるフレーズが散りばめられたキラキラした楽曲で、長谷川も歌詞を噛み締めながら笑顔で言葉を届けていた。会場が初めて聴くとは思えない盛り上がりだったことも印象的だった。

「最後の最後になります。残っているエネルギーを出し切ってくれますか! もっともっと声を出してくれますか! 限界超えられますか!」と煽り、TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』OPテーマ「青春コンプレックス」を叩きつける。オーディエンスも言われた通り、持てる力を出し切り、〈かき鳴らせ〉〈打ち鳴らせ〉と叫ぶ。無数の拳が高くつき上がり、ものすごいパワーで会場を盛り上げ、それに応えるように、長谷川も全力の歌声をぶつける。熱気と汗がほとばしる最高に幸せな空間となったZepp Haneda (TOKYO)。結束バンドの実在感、ロックのエモさ、カッコよさ、全てが凝縮されていたライブだった。

ライター:塚越淳一
カメラマン:田村与、内田藍

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